宇宙手帳

広く日常。

【読書感想文】ぼっけえ、きょうてえ【ネタバレ有】

岡山に戻ってきた記念に読んでみることにしました。

ネタバレを含みますので、未読の方は「続きを読む」を押さないでください。
(わたし自身、自分が読む前に他人の口からネタをバラされるのが大嫌いなので……)

では以下、表題作ほか3篇、計4篇共通のまとめ的感想です。



読ませる文章です。
どの話も、ハッピーエンドやあたたかい読後感を期待するような話ではありません。
全体の印象を一言で言うと、「クズ男多すぎ」。

したがって、不幸な女がたくさん出てきます。
が、話が現実離れしているせいか、感情移入しすぎて鬱になることはありません。


意外だったのは、濡れ場の描写があまりしつこくなく、ドライだったこと。
作者は下ネタばかり言ってる人、という先入観があったので、濡れ場描写ばかり微に入り細に入りするタイプだったら嫌だなあと思っていたのですが、要らぬ心配でした。誤解しててすみませんでした。


物語の最後は、「衝撃の真実」「大どんでん返し」というよりは、オチがついてきれいにまとまる感じです。
後味がいいとは言いませんが、それほどしつこくはあとを引かない感じ。程よく嫌な話。



わたしはホラーや怖い話が好きというよりは、「不思議な話」が好きです。オカルトよりエニグマ派。
ホラー映画で、突然グロい画像や音でビックリさせられるのは嫌い。心霊話も好きじゃない。(心霊を信じてないので……心霊話なんて亡くなった人に失礼だろう、と思ってしまう)

亡霊や物の怪が出てくる話より、そういうものは一切出てこないのに理屈に合わない不思議なことが起こる……そんな話が好きで、ネットで怖い話まとめをよく読みます。


岩井氏の小説を読んでいる時の気分の高まりは、怖い話まとめを読んでいる時の気分に似ています。
「次は何が出てくるのかな」という期待。そして期待を裏切らない展開。ホラー好きの人の好奇心のツボを次から次へと突いてくる。

狂気。腐乱死体。職場や近所のヘンな人。殺人。不義密通。……などなどなど。
変な人・異様なもの・奇妙な出来事が次から次へと現れては消えていく。



少し話は変わりますが。


「地方ホラー」という言葉があるかどうかはわかりませんが、そういうジャンルの他の小説を、少し前に読みました。

坂東真砂子氏の『狗神』。高知県を舞台にした、ちょっと不気味な話。
地方風味の不気味な話を読んでみたい、という願望が以前からあったので。


『狗神』は、話がよく作りこまれていて、文学的な香りがありました。読みやすくて一気に読みました。
ツッコミたくなる箇所もありましたが、そんなものは坂東作品に限らず、このテの話にツッコミどころがないはずがないのでスルー。


坂東氏の小説は、すんなりと世界に入り込めて、手を引っ張って案内してくれるような読みやすさ。
岩井氏の小説は、ホラ、次行け次!と、次々に待ち構える怪異に向かって背中を押されるような読みやすさ。
というのが自分の印象でした。


ネットで怖い話をたくさん読んで、その雰囲気に慣れてグロ耐性も多少ついてしまった自分としては、岩井氏の雰囲気の方が馴染みやすく、興味をそそられます。
下世話で低俗な話に慣れてしまったんだなあ……と、ついシミジミとしてしまいました。