【読書感想文】なぜ上手い写真が撮れないのか
「写真撮影の基礎的な技法や知識は身につけていて、写真を撮ることはできるのだけど、そこからどう進んでいいのかわからない」という人、いると思います。
一通り基礎を身につけた後、職業カメラマンを目指す人や、コンテストなどの競争の世界を目指してバリバリ進む人は、目的がハッキリしているから迷いがない。
だけど、「人と競争して勝つために写真をやってるわけじゃない。ただ写真が好きで撮り続けたいんだけど、なんだかマンネリぽくなってきてしまった」という人もたくさんいるはずで、この本はそういう人のための本です。
「インスタでいいねをたくさんもらうための写真術」みたいなのでは全然なくて、「いかに写真(を撮ること・見ること・選ぶこと・見せること)を楽しむか」という意味での写真術に徹しています。
だからといって精神論の話ではなく、簡単にできる実践が数多く紹介されています。
ちょっとだけ何かを変えてみようという提案
マンネリやスランプに陥って、なんとなく行き詰っているのは、「上手い写真」「上手くなる方法」に関する考え方がそもそもちょっとズレてるんじゃないですか?
では、こう考えてみてはどうですか?
こういう視点に変えてみてはどうですか?
或いは、カメラを変えたりデジカメの面白機能を使ったりして、気分転換をしてみてはどうですか?
……そんな感じの提案が満載です。
今まで、「写真はこう楽しむものだろう」と思っていた範囲を、グッと広げてくれます。
信条にとらわれない軽やかさ
何十年も写真をやっている重鎮!というほどではなくても、強いこだわりをもって写真をやってきた人の中には、比較的若くても頭のカタイ人がいます。「デジカメのモノクロ写真なんて邪道だ!モノクロ写真は、銀の粒子で表現されたものでなければ!」とか、「人物写真とはこう撮るべきだ」とか、わたしも言われたことあります。
もうその人と付き合いがないので、その人が今もそう言っているかは知らないんですが……。
自分の確固たる信条をもつことも、ひとつの道で自分を高めていくためには、大切なことなのだと思います。
あなたの言うことは確かに正論だとも思います。
でもそれをわたしに押し付けないでくれ。
それをできないわたしをダメ写真家みたいに言わないでくれ。
と、口には出さなかったけど、わたしはそう思ってました。
この本の著者は、そういう確固たる信条の押しつけみたいなことを全然してこないので、安心して読めます。
「モノクロってなんかカッコよさそう」という軽い気持ちで、撮影済みのデジタル写真をPCでモノクロ変換してみたり、デジカメのモノクロモードで撮ってみたりしてみてはいかがですか?と、軽やかに誘ってくれるのです。
そんな風に言われたら、「ちょっとやってみようかな」って思っちゃうじゃないですか。
著者の丹野清志さんが大好きだと、以前も書いたことがありますが、どこが好きかというとそういうところなのです。
写真に対する姿勢が、柔軟で軽やかなのです。
真剣に向き合っていながら、自然体。
「自然体」という言葉は、世間で使われすぎて手垢がつきまくって、あまつさえ変な思想まで浸み込んでる感じになってしまった単語なので、あんまり使いたくないのですが……。
だけど、手垢や思想がつく前の、原始的で純粋な意味での「自然体」という言葉が、この著者にはとても似合うと思います。
時代がいくら流れても
丹野さんの本は20年前から読んでいるワケですが、当時とは状況が全然違ってきました。
あの頃は、ブログサービスもまだなかったか、出て来たばかり。SNSなんかまだほとんどの人がやっていなかったし、スマホなんか誰も持ってなかった。
あれからすっかりデジカメの世の中になり、スマホやSNSが一般に浸透し、大手メーカーがフィルムや印画紙の生産を次々にやめつつある現代。
そんな現代になってから書かれた、丹野さんの新しい本。
こんな時代の中にあっても、古き良き時代が去りゆくのを嘆くでもなく、インスタで写真を楽しむことを否定するでもなく、だからといっていいねやフォロワの獲得に躍起になるよりも、写真そのものを楽しもうよ、という著者は、20年前とちっとも変っていなくて、とても安心しました。
丹野清志さんという写真作家に出会えたことを改めて喜びながら、ずっと写真を楽しみ続けていきたいという思いを新たにしました。
以下補足あるいは蛇足
ここまで絶賛しておいてアレですが……というか、内容が本当に絶賛モノだったから余計に悪いところが気になるってワケなんですけど。
脱字が多すぎる。
誤字もあるけど、更に脱字がすごい。数えてないけど10個くらいはあったと思う。
せっかく内容が素晴らしいのに、読んでいて「また脱字か」ってなるとテンションが下がってきます。読んで意味がわかればいいだろう、という問題ではありません。
再販時にはぜひ直してほしいと願っています。
それと、なんか表紙の紙質が、すごく傷がつきやすい材質みたいで、書店に並んでいた時点から傷がいっぱいついてました。
この本をずっと大切にしたい人にとっては、ちょっと残念な点だと思います。
特に、脱字に関しては、こんなに素晴らしい本なんだから、もっとしっかり作ってくれなきゃ怒りますYO!?というような気持ちになってしまいました。
まとめ
というわけで。
最後にいろいろ書きましたけど、写真を楽しみたい人には最強のオススメ本です。
或いはこの本を読んで、今から写真を始めたいという人が増えれば、とてもうれしく思います。